「ちょっと」の使い方
日常よく使う単語のなかには、文脈によって意味が変わるものがいくつかあります。「ちょっと」はその代表例と言っていいでしょう。日本語を少しでも学んだ方は、この言葉はよく聞くと思います。ところが、「ちょっと」をマスターするのは容易なことではありません。みなさんは、「ちょっと」を自信を持って使えますか。
例えば、次の例を見てみましょう。
教師:あたらしいうち、見つかった?
学生:いいえ、まだです。昨日見に行ったけど、家賃が9万円だった。
教師:ああ、そうか。それはちょっと高いね。
学生:いいえ、ちょっとじゃないです。すごく高いです。
Kyoushi: Atarashii uchi wa mitsukatta?
Gakusei: Iie mada desu. Kinou mini itta kedo, yachin ga 9 man-en datta.
Kyoushi: Aa, souka. Sore wa “chotto” takai ne.
Gakusei: Iie “chotto” janai desu. Sugoku takai desu.
Teacher: Have you found your new flat?
Student: No, not yet. I went to see one yesterday but the rent was 90,000 yen.
Teacher: Is that so? That’s “a bit” expensive indeed.
Student: No, not “a bit”. It’s “very” expensive.
日本語学習者にとって、このような場面で「ちょっと」を正しく理解するのは容易ではありません。一般的に「ちょっと」の意味として最初に学ぶのは、「すこし」や「すくない」でしょう。
しかし、この会話のなかの意味は「とても」になるのです。したがって、正しい答えは「はい!ちょっと!」なのです。意味は、「はい、たしかに。」です。
ある文脈では、「ちょっと」は「すこし」を意味します。例えば、
- 「ちょっと待って」”chotto matte” : just a moment.
- 「ちょっとだけ日本語が話せる」”chotto dake nihongo ga hanaseru”: I speak Japanese a little.
ところが、違う文脈では全く意味が変わって、「かなり」あるいは「とても」と同じになります。特に、文章の終わり部分で否定を伴って使われる場合は「とても」の意味になることが多いです。
例えば、
A: 何度も裏切られてきたから、彼のことは、もうちょっと信じられない。
A: Nando mo uragiraretekita kara, kare nokoto wa, mou chotto shinjirarenai.
A: I have been betrayed by him many times, so he is very untrustworthy.
A: 昨日の暑さは、ちょっとひどくなかった?
A: Kinou no atsusa wa, chotto hidoku nakatta?
A: Wasn’t yesterday very hot?
最後に、「ちょっと」の使い方と意味をまとめてみましょう。
1) 「短い時間」、「一瞬」、など時間的な意味:
- 「ちょっとの間に」”chotto no aida ni”: In a jiffy
- 「ちょっと待ってくれ」”chotto matte kure”: wait a minute [moment]!
- 「ちょっと聞いていいですか」”chotto kiite ii desu ka”: Could I ask you a quick question?
2) 少し、など数や程度がわずかなことを意味する場合:
- 「ちょっと見る」”chotto miru”: to take a glance (at)
- 「ちょっと見ると[考えると]」”chotto miru to (kangaeruto): at first sight (thought)
- 「彼はちょっと学問ができる」”kare ha chotto gakumon ga dekiru”: he is a bit of a scholar
3) 思った以上であることを意味する場合:
A:「昨日のテストどうだった。」
B:「ちょっと難しかったよ。」
A: Kinou no tesuto dou datta?
B: Chotto muzukashikatta yo.
A: How was yesterday’s test?
B: Rather difficult.
4) 難しいことを示す場合:When something will not be easy
- 「このシミはちょっと落ちないよ。」: This stain won’t come out easily.
- 「それはちょっとできない事だ。」: It is a difficult thing to do.
このように「ちょっと」にはいろいろな意味がありますので、気をつけましょう。最後に日本の文化でひとつ大事な点を挙げておきましょう。それは、日本人はできるかぎり「いいえ」と直接言うのを避けようとすることです。このような場合、「ちょっと」を使って、依頼されていることが難しくてできない、つまり暗に「いいえ」と伝えるのです。次の例を見てみましょう。
A:「明日一緒に飲みませんか?」
B: 「ごめんなさい、明日はちょっと用事があって・・・」
A: Ashita, isshyo ni nomimasen ka?
B: Gomennasai, ashita ha chotto youji ga atte…
A: Why don’t we drink together tomorrow?
B: I am sorry, tomorrow I have some errands…