「がんばって!」「がんばる!」精神
ある国とその人々を語るときに限って使われる単語や表現があります。日本と日本人の特徴を表す「がんばる」や「がんばって」は、その最も典型的な例でしょう。あまりによく見聞きする言葉なので、その意味を日本語以外でどう表現すればいいのか、悩んでしまうほどです。私にとって「がんばる」は体現的な日本語です。すなわち、「がんばる」という言葉には、共通の目標を達成しようと周りの人を巻き込んで、一致団結して取込もうという意味が込められています。
何年も前に私が日本に来て、はじめて耳にしたのは「がんばる」の命令形「がんばれ」、その短縮形「がんば」でした。それは高校の陸上競技会でのことでした。新しい仕事を始めるときにも同じ言葉を聞きました。当初、私は「がんばれ」は「幸運を祈る」と同じ意味だと思っていましたが、やがて違いに気づきました。例えば、競技会に向けて共に苦労を重ねたチームメートや学生時代に苦労をともにした仲間への共感がこの言葉には含まれていたのです。
次のふたつの例文を見てみましょう。お互いに励まし合っている情景が浮かびませんか。
例 1)
A: 明日から新しい仕事を始めるんだ。
B: そうなんだ。がんばってね!
A: うん、がんばる。
A: I’ll start a new job tomorrow.
B: Ohh, do your best/hang in there, yeah!
A: Yeah, I will.
例 2)
A: 今月は新しいプロジェクトがあってすごく忙しくなりそうです。
B: 大変ですね。がんばってください。お体、気をつけて。
A: ありがとうございます。がんばります。
A: I’ll start a new project this month, so I expect to be really busy.
B: That’s rough. Hang in there. Take care of yourself.
A: Thanks. I’ll do my best.
どちらの例も、残念ながら英語訳では原文に込められた気持ちが伝りませんね。なぜでしょうか。それは、直面する課題に全力であたるという訳には「がんばる」が伝えようとする深い共感が十分に表されていないからでしょう。「がんばる」と聞いて、みんなが思い起こすのは過去の経験、前職の回想、そして元の上司に対する不平不満などかもしれません。それらの思いを全て吸収して発せられるのが、「がんばる」なのです。
英訳を見てみましょう。友人が新しい仕事を始めるとき、一生懸命になるのは当たり前のことです。結局、ふたつの文章は同じ情景を語り、そして聞く人を励まそうとしているのですが、表現方法は異なります。
がんばる 精神 Gambaru spirit
日本人が取得する休暇の日数が、毎年他の国に比べて最も少ないのも「がんばる」精神のひとつなのです。神戸と東北で大震災が起きたとき、人々を勇気づけたのも典型的な「がんばる」精神でした。「精神」が後ろに付くことにより、日本人は復興に共同で取り組んで、完成までがんばり続けられるのです。「がんばる」には「粘り強い」気持ちが込められいますが、さらに重要なのは、人々の強い意志と努力に裏打ちされた復元力なのです。これこそ、体現的表現なのです。
ですから、今度「がんばる」と言うときは、単に「我慢強く」や「一生懸命」、あるいは和製英語の「ファイト」以上の気持ちを込めましょう。これまでの経験に基づいてこそ、「頑張る!」が持つ本当の気持ちを伝えることができるのです。